第2夜
「あんたぁ!またやったんねぇ!」
ワンボックスタイプの警察車両の後部座席に乗り込みスライドドアが閉まった瞬間、さっきまで台所で朝食の味噌汁と卵焼きを作っていたはずの母親が窓越しの俺に向かって叫んでいた。
(オカン、朝早くから近所迷惑やで)
顔も見ずに口の中で小さく呟いた。
両脇を刑事に挟まれ1番後ろの席に座った俺は、仕事に行く前だった事を思い出して少し慌てた。
「刑事さん、会社に休む連絡していいですか?」
右隣りの若い刑事にそう伝える為に横を向いた瞬間、車の外にいた母親が別の刑事に連れられて自宅の方へ歩いて行くのが見えた。
これから何をすべきか、わかっているのだろう。
これで3回目の逮捕なのだ。
「おはようございます。すいません。熱が出たので休みます」
返事を待たず、一方的に言ってすぐに切った。
どうせ2年近くは帰れない。
「もうええか?行くで?」
助手席の年配の刑事が、首だけこちらを向けて言った。
俺はまっすぐその目を見つめ、顎の先を1センチほど縦に動かした。
「よっしゃ。ホナいこか」
車が動き出した。
普段会社に行く方向とは真逆に景色が流れていく。
(あぁ、またしばらくあの生活か…)
そう考えたら不意に尿意を催してきた。
朝起きてトイレに行ったはずなのに。
「おい、なんでそんな事したんや。カネか?」
走り出してすぐ右横の若い刑事がこちらを向いて尋ねてきた。
「お前これで何度目や?何が原因や。またパチか?ホンマにええ加減にせえよ?」
矢継ぎ早に言葉を発する目には好奇の色さえうかがえる。
3秒ほどその目を見つめた後視線を前に戻し、
「警察署で話します」
それだけ言った。
テレビの警察ドキュメント番組のやつみたいに、逮捕された後の後部座席でベラベラ喋るほどアホちゃう。
信号待ちで車が止まった。
登校前の自転車の女子高生が青に変わるのを待っている。
次に帰った時はもう二度とギャンブルはしないと誓ったはずだった。
スロットをする為に人の家に入ってカネを盗むなんて事、絶対にしないとオカンに泣いて訴えたのに。
俺はまたやってしまった。
(ムショの称呼番号は何番になるんやろ)
そんな事を考えていたら再び車が走り出した。
(出所したら今度こそ絶対にギャンブルはしない)
少しワクワクしながら考えた自分がおった。