ギャンブル千夜一夜物語

実践だったり雑記だったりしますけど、創作で読み物書きます。遊戯中やら空き台待ちや開店待やらの暇つぶしに読んでください。

第1夜

「妊娠したよ」
「明日雨が降るってさ」


どうやらアイツにとってそれは同じ位の内容らしい。
ふーんと言った後、少し時間があってからピースに火を点けてアイツはアタシにこう言った。



「堕ろさないんだったら、ヒカルな?」


「・・・え?」


「ヒカル。名前だよ」



(お腹に赤ちゃんがいるって言ったのにタバコって)
少しだけ思ったけど、アタシはその頃アイツが本当に好きだったから堕ろす気はぜんぜん無かった。



「ジャグラーのGOGOランプは光ればみんなを笑顔にすんだろ?そのガキもそんな光みてーになればいいんじゃねーの」
今思えば人に言えないバカみたいな理由だったけど、ちゃんと考えてくれてる感じがして嬉しかったんだ。




17の夏から年齢をごまかしてデリヘルではたらくようになって5年。
地域で二番目に大きな今の店では、もうすっかりベテランになった。
店長が自分のクルマを何回買い替えたかも知ってる。






ある日の夜、45分ショートが終わった後待機所に戻る送迎のクルマの中で、指名のお客のインスタを見ていたら、ドライバーのナカタニ君が突然、


「ちょっと人に会いますんで」


と言った。


ホテル街の近くにあるローソン。
お店の光が当たらないような端の方の駐車場に、窓まで真っ黒のその車は停まっていた。
ナカタニ君がゆっくりとその車に近づいていく。
アタシが乗ってるのに誰かと会うなんて、大丈夫なんだろうか。
そう思いながらスマホの操作を止めて、だんだん近づくのを目だけで追ってた。



(やくざ・・・)



口には出さなかった。


ナカタニ君はその横に停まってライトを消して、どこかに電話を掛けた。


「着きました。横っす。・・・はい、キャストが一人だけです」


はい、はい、分かりました、と言いながら売り上げ金の入ったバッグを持って降りて行くと、やくざのクルマの運転席の横に立った。
すぐに窓ガラスが下がり、40代くらいの髪の短い男が顔を出した。
この仕事で働きだしてすぐにそういう男はつきものなんだとに知ったからこんな状況でもアタシは特に何も気にせずスマホをいじっていた。



「へえ。かわいい顔してんなお前」


いきなり助手席のドアが開いたと思ったら、髪の短いやくざがアタシを見て言った。
あまりにも突然の事で、ナカタニ君を探した。



「今度指名するからよ、ちゃんとちんぽとケツの穴までなめろよ?」



にたにた笑いながら言うと、自分のクルマに乗ってどこかへ行った。


サイアクだった。





それから何日か後ですぐにそのやくざ、「アイツ」に呼ばれた。
結構高めのラブホテル。
120分、めちゃくちゃにやられた。
言ってた通り、お尻の穴も舐めた。
何個も真珠の入ったアレを咥えるのはすごく大変だった。




「ほらよ」
ベッドの角でイソジンやローションをバッグに詰めて帰り支度をしてるアタシの目の前に、アイツはいきなり1万円札をぼとっと投げつけた。
1枚は2つ折りで、真っ直ぐの1万円札を挟んでた。


(10万円)


金額はすぐに分かったけど意味がわからなかった。



「なんですか?これ」



「チップだ。とっとけよ。」
お店を通さずに貰うお金は本番する時の1万とかだけだが、今回はシてない。
シてたとしてもさすがにこれは額が違う。


「え、いや、普通のサービスしかしてないのにこんなにもらえません」


ちょっと怖くなったアタシはそれを手にせずそう言うと、アイツは目の前まで近づいて来てこう言った。


「・・・んだオマエ、落ちたカネを俺に拾えってのか?」


大金を目の前にして混乱しているところに変なリクツ。
顔を見ると眉毛と眉毛の間隔がさっきより短い。
怒っているのがすぐに分かった。



「とっとけや」
だけどアイツはそれ以上言わず、自動精算機を操作して出て行った。



バタン。


ドアの閉まる音で我に帰った。



「ほんとにもらっていいのかな・・・」
正直、助かった。



アタシはそのお金を自分の財布に入れて部屋を出た。


「すごいな。やっぱりやくざってお金持ってるんだ・・・」



それが、すべての始まりだった。
籠の中の鳥。



アタシはアイツに捕まった。

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